なんとなく遠出したかったんだ。 本当に理由も無く「ただ普通の日常を過ごすうちにその日常が嫌になった」と言えば嘘になってしまう。 しかし本当にそうなのであろうか? 新しい自分に出会うために遠出してみたり、家の習慣や環境について行けなくなって逃げ出したのではなかろうか? そんなことを考えていると見知らぬT字路にやってきた。 「左へ行こうか、右へ行こうか・・・右へ行こう」 (人が迷ったときは左へ行くという心理があるのを知っていたので)すると、 見知らぬ町のくせに妙に懐かしい気分だった。 よく見ると俺の友達ばかりがその町で生活をしているではないか。 俺は一人の友人に話し掛けた。しかし返事が無い・・・おかしいと思い他の友達にも話し掛ける。 一緒だった。不安になった。だから俺は町を出た。今度は電車で出た。 350円で行けるとこまで行こうと思う。電車のドアが開き、やさしく俺を迎え入れてくれた。 しかし機械には俺の心を知ってやさしく迎え入れてくれたのではないだろう。 電車とともに俺の気持ちも揺れる。 「やはり帰ろうか・・・しかし帰ってもまた遠出しようと思うだろうし」満員電車の中、 吊革を掴む俺がいた。ある駅についた。そこでみんなが一斉に降りた。俺もつられて降りてしまった。 改札を出ようと切符を見ると『両思い切符』だった(整理番号の左端と右端が同じ番号の切符) 駅員さんに頼んでこの切符をもらった。 「大分遠出したな・・・」まったく知らない町の名前だった。 腹が減ったのでうどん屋に入った。有名店だったのか相席しかなかった。 うどん定定食を頼むと、相席していた男が言った 「あんたこの町は初めてかい?この町には観光かい?」 俺は「いや、意味も無く遠出してみようと・・・」 「家出ってやつか?」 「そうでもないよ・・・」 「みんな心配してるんじゃないのか?」 「それもそうだなじゃ家に帰るよ」と見上げた顔は俺が年を取ったような人だった。 そしてうどん定食をおごってもらった俺は『年上の俺』に駅まで送ってもらった。 電車に乗ろうとした俺が驚いたのは電車の目的地だ。 『10年前』と書かれた目的地の看板・・・ 「あれは本当に俺だったのか」半信半疑で驚きながらその電車に乗った。 初めに乗ってきた電車は30分程だったのに帰りは1時間たっても行きに乗った駅に着かない。 眠たくなったのでついつい寝てしまった。起きてみるとその駅のホームに立っていた。 そして家路に着くときはT字路を右に帰っている最中にいろいろ考えていた。 あれは本当の俺で『年上の俺』も10年前になんとなく遠出していて、 ここでこうなることを知っていたので家に帰るように言ったのであろう。 なぜ遠出をしたのか、ほんとうになんとなくしたのか今の俺には分からない。 でも10年後の俺は分かっているから遠出をこれ以上させようとはしなかったのだろう。 だから俺は遠出した理由を知るために10年間行き続けようと思った。 そして、10年前の俺が来たときに遠出をさせないように言おうと思う。